第103章 これで※
「ご、ごめん・・・」
「聞きたいのは、そっちじゃないな」
分かってる。
けど罪悪感の方が強かったから。
「・・・す、好きだよ・・・」
顔を見られないように、顔を埋めたまま彼の背中に手を回して。
意外と胸板が厚いことに、いつもこうやって気が付く。
彼は私が見ていない所で、いつもトレーニングをしていて。
・・・努力は怠らない。
そんな彼が、好きだ。
「知っていた」
・・・ダメだ、甘過ぎる。
こういうのは、むず痒くて、もどかしくて、切なくなる。
私に甘さは、時に毒となる。
「・・・っ、きゃ・・・!?」
その毒に犯されるのを拒むように、背中に回した手の力をキュッと強めた瞬間、背筋に冷たい感覚を覚えた。
それが服の裾から入った彼の手だという事を感じ取りながら、背筋を伸ばし声を上げると、彼の体が小刻みに揺れて。
「すまない、冷たかったか?」
クスクスと笑う彼に、恥ずかしさからくる怒りのようなものを覚えた。
「違・・・、急に触るから・・・っ」
だからといって、その手が肌から離れることはない。
離れるどころか、そのまま背中を這いながら胸の方へと移動していく事を感じれば、思わず体が身構えた。
「・・・ッ」
緊張、する。
恐らく私が黙っていれば、このまま所謂体を重ねる事になるのだろうけど。
今まで幾度となく、してきたのに。
何故か今日は、異様な程に身構えていて。
・・・いつも、どうしていたっけ。
「れ、零・・・っ」
「ん?」
待って、とは言えなかったから。
とりあえず彼の名前で静止をさせたけれど。
「どうした?」
・・・どうした、のだろう。
自分でも、よく分からなくて。
「ご、ごめ・・・」
口を開けば、謝罪の言葉ばかり出てしまう。
・・・とにかく、今は動揺が大きくて。
「・・・いや、僕も悪かった。寝起きの人間にする事じゃなかったな」
そう言って、彼の手はスルリと服の中から抜けさって。
止めたのは私なのに。
何も言えず、謝罪しか口にできなかったくせに。
いざその手が離れれば、喪失感は大きくて。