第103章 これで※
「ご、ごめんなさい・・・っ」
咄嗟に、零から距離を取るように壁へと勢いよく後ずさると、自分の心臓が異様に早く動いていることに気付いた。
「ひなた?」
・・・嫌い。
確かにそう言ってしまった。
他にも、彼を傷付けるような事を言ったり、態度を取ってしまった。
・・・残念ながら、思い出してしまった。
割とあっさり、突然に。
だから彼は・・・思い出さなくて良いなんて言ったんだ。
でもあれは本心じゃなくて。
「す、好きだから!」
・・・きっと時間は深夜。
そんな時間に、私はそれなりの声量で叫んで。
「嫌いって言ったのは零の事じゃなくて、自分に言ったの・・・っ」
思い出した事を、正直後悔した。
そのせいで、目が泳ぐ。
勘違いされたくないのに。
これは嘘ではないのに。
動揺しないようにすればする程、挙動がおかしくなってしまう。
「本当に、嫌いじゃなくて・・・っ」
視線は落としたまま。
シーツをキュッと握って冷や汗を頬に流すと、言葉に詰まった。
何て言えば良いか、分からなくなって。
「・・・ッ」
彼に目を合わせられないでいると、離した距離をゆっくり詰められて。
彼は中腰になると、私を跨ぐようにして壁へ追いやるように手をついた。
「じゃなくて?」
そういえば酔っている間にも、こういう風に言葉を促された。
「す、好き・・・ッ」
言葉を詰まらせていたはずなのに。
出るべき言葉は、押しでるように出てきた。
シーツを握っていた手を、壁についた彼の腕へと移して。
きちんと、言えた。
・・・言えた、けど。
「・・・ッ・・・!」
我に返れば、恥ずかしさは倍増していて。
「・・・もう一度言ってくれ」
「も、もうダメ・・・!」
私に、こういう甘い時間は難し過ぎて。
どうしたら良いのか、分からなくなる。
「・・・嫌いと言われたのは、割と辛かったんだがな」
「ッ・・・」
そんな捨て犬のような目をして、そんな風に言われると、罪悪感を感じないはずがなくて。
唇を噛んではフルフルと震えると、彼の肩辺りへと顔を埋めた。