第103章 これで※
「まさかあのタイミングで寝られて、覚えていないとはな」
「ご、ごめん・・・」
何か怒っていたような気はする。
でも何に怒っていたのかが思い出せない。
それに。
「あのタイミングって・・・?」
まさか。
これも無いとは思うが、情事の最中で寝てしまった、とか。
「想像に任せるよ」
それはズルい言い方だ。
・・・いや、そもそもは私が飲み過ぎて覚えていないことが悪いのだけれど。
少なくとも、彼の様子から怒っているようではないが。
「・・・ごめん」
「今度はひなたが謝るばかりだな」
今度は?
「どういうこと・・・」
ベッドに腰掛ける彼の背中に問えば、彼は僅かにこちらへ視線を向けて。
きっと少し青ざめている私の顔をジッと見つめると、私の体を跨ぐように、体を近づけては片手を私の側へとついた。
「・・・どこまでは覚えている?」
こういう時に見つめられる彼の視線は、少し苦手だ。
自白剤のように、私の隙を作らせるから。
「お、沖矢さんと・・・飲んでて・・・」
・・・残念ながら、もうその先がぽっかりと抜けている。
思い出せそうなのに、そこまで手が届かなくて。
「覚えていないなら、思い出さなくて良い」
「・・・っ」
そう言って彼が私の頬に触れた瞬間、ビリ・・・ッと体に電気が走る様な感覚を覚えた。
まるで、デジャブの様な。
経験した事があるような感覚。
「・・・・・・」
その感覚に間違いはない。
彼が私の頬に触れた事は何度もあったから。
でもそうじゃなくて。
つい、最近。
この感覚を・・・体が覚えている。
「・・・どうした?」
一瞬動きの止まった私を不安に思ったのか、彼は小首を傾げながら、ゆっくりと私の髪を耳にかけた。
その瞬間だった。
「!」
彼の手が耳に触れた瞬間、思い出せた。
思い出してしまった。
・・・とんでもない事を、彼に言ってしまったことを。