第15章 謎特急
少しスマホを操作した後、小さくため息をついたように見えた。
「・・・不本意ではありますが、彼女の部屋を知っているようなら案内をお願いします」
「ええ、分かりました」
少し不機嫌そうに見える透さんは、スマホをポケットにしまうと私に向き直って、また耳元に顔を近付けた。
「・・・似合ってますよ、そのワンピース」
いつもの優しい声色でそう言われて、心臓を高鳴らされた。
目線だけ真横の透さんに向けると、視線が混ざりあって。
その瞬間、顎を掴まれたと思った時にはもう、唇同士が触れ合っていて。
「・・・っん・・・!」
するりと侵入してくる透さんの舌が口内を犯していく。
沖矢さんが見ているのに。
いや、見ているからか。
「ん、ぅ・・・っ、とお・・・っん!」
名前を呼ぼうとするが、隙間を何度も口で塞がれてしまう。わざと呼ばせないのだとすぐに気付いた。
「・・・っ・・・はぁ・・・!」
ようやく唇が離れ反射的に瞑っていた目を開くと、満足気な透さんが目の前にいて。
「ごちそうさまです」
そう言いながら舌舐めずりをして。
その仕草に疼くものを感じ、視線を逸らした。
「あの・・・、お別れの挨拶が済んだようならよろしいでしょうか」
「ええ、すみません」
チラリと沖矢さんに視線を向け、どこか挑発的な言い方で謝罪の言葉を告げた。とても謝罪には聞こえなかったが。
「では、ひなたさん。良い旅を」
そう言い残し、透さんが私の傍を通り過ぎようとした時。
「・・・あの男にはあまり近付かないように」
すれ違いざまに、小さく私だけに聞こえる声でそう話した。
一瞬、その言葉の意味を理解する為に立ち尽くしてしまい、聞き間違いでないことを確認しようと振り向くが、そこにはもう彼の姿は無くて。
「・・・透さん・・・・・・」
何か得体のしれない不安がどっと押し寄せる。
とても気分が悪くて。
「あの、大丈夫ですか?」
「えっ、あ・・・はい。大丈夫で・・・」
言いかけた時、沖矢さんが私の口元に人差し指を当て『静かに』の合図をする。
それに気付き、これ以上何か口にすることをやめた。