第15章 謎特急
「に、逃げてません・・・」
「では、ここでご連絡をどうぞ」
透さんが耳元でそう囁くから。
体がピクっと反応してしまって。
「と、透さん・・・っ」
離れて欲しいと彼の胸板を押した瞬間、違和感に気付いた。何か物理的に硬いものを感じる。
服越しだから確かではないが・・・この形は・・・
「・・・おや、貴方は」
透さんではない、また聞き覚えのある声が聞こえて。
透さんとほぼ同時にその方向へ視線を向けた。
「やはり、この間の方々ですよね?」
沖矢さんがそう言いながらこちらに近付いてきて。
それを見た透さんは私から離れ、沖矢さんと向き合うように立った。
何故か今だけは、沖矢さんの方が信頼できる気がしてしまう自分が憎かった。
「ああ、貴方は先日ひなたさんを助けた・・・と見せかけてひなたさんに言い寄っていた方ですね」
「ち、違います!」
思わず私が口を挟んでしまって。
何だかあの時の話が大きく傾いている。
透さんがなぜ沖矢さんを毛嫌いするのかは分からなかったが、ここで妙に勘ぐられるのも、沖矢さんとそういう関係だと考えられるのも嫌だったから。
「僕はあの日たまたま通りかかっただけの者ですよ」
「そういうことに、しておいてます」
二人の間にピリつく空気が立ち込める。
最高に居心地が悪く、早くこの場から立ち去りたかった。
「それより、こんな場所でなくても部屋で二人の時間を楽しめば良いのでは?」
「貴方には関係のないことですよ」
透さんの後ろに立つ私は沖矢さんに視線だけで、この場を早く離れたいことを訴えた。
「わ、私の部屋が分からなくなって・・・迷子になったんです・・・」
口を挟むなら今しかない。そう思って、透さんが次に口を開く前に返事をした。
「おや、別々で来ていたんですか?それなら貴女の部屋は、恐らく僕の隣の部屋だと思いますよ。貴女に似た人が出るのを見たので、まさかとは思っていたんですが」
「・・・そう言って、彼女を部屋に連れ込もうという魂胆か」
「とんでもない、人の物に手を出す趣味はありませんよ」
お互い笑顔は崩れないのに、和やかな空気とはいかず。ただただ息苦しくなる一方だった。
そんな時、突然透さんのポケットからバイブ音が鳴り出して。それに気付いた透さんは、沖矢さんから視線を離さないまま、スマホを取り出した。