第103章 これで※
「勧めたのは俺だが、もうやめておけ。そんなに強い訳でもないだろう」
「そんなことないですってば・・・っ」
少し言葉が荒っぽくなっているのは、自分でも分かる。
だけど酔ってなんかいない。
ちゃんと、自我は保っている。
そう言い聞かせながら、手にしていたグラスの中身を再び空けた。
「君は相変わらず嘘が下手だな」
そのグラスを沖矢さんは奪うように取り上げると、代わりに先程差し出してきたペットボトルを、半ば強引に握らせた。
嘘なんてついてないのに。
まだ飲めるのに。
まだ、気は紛れていないのに。
「・・・ッ」
私より遥かに飲んでいるのに、普段と顔色一つ変えない彼へ段々と苛立ちを覚える。
その荒だった気の中、座っていたベッドからフラフラと立ち上がっては、沖矢さんに近付いて。
「嘘なんて、ついてません・・・!」
彼の胸ぐらを掴んでは顔を近付け、やり場の無い怒りを表情と声色に出した。
「・・・君がそこまで酒癖が悪いとは、想像もしなかったな」
そのすました顔が気に入らない。
何故か、酷く苛立ちを覚える。
「・・・沖矢さん」
余裕そうなそれが、零と同じだ。
「抱いてほしいと言えば・・・そうしてくれますか」
だからその余裕を壊してやりたくて。
どこまでも堕ちてやろうかと、ヤケになって。
してほしくもないことを口にした。
「悪いが、全く勝算の無い勝負には乗らない」
なのに彼は私を堕とすでも無く、その余裕を崩すでも無く、ただ冷静に胸ぐらを掴んだ私の手を優しく解いた。
・・・悔しい。
どうしてこうも、悔しいのか。
「そうですか。そうですよね、可愛げの無い女は抱けませんよね」
私の手を掴んだ彼の手を振り払うように弾くと、倒れ込むように、前身からベッドに体を預けて。
その柔らかさに包まれた瞬間、瞼は酷く重さを増すようだった。
「・・・あまり隙を見せるな」
見せた所で、襲わないくせに。
どうしてこうも卑屈になるのかは分からないが、沖矢さんの言葉全てに苛立ってしまう。
私はただ。
・・・ただ。