第103章 これで※
「きっと、私もそうなんだよ」
如月ひなたという人物は、最初から存在していなくて。
ただ私とコナンくんの違うところは、自らが望んでなったかどうかという点だけで。
「元の、如月ひなたに戻るだけ」
それだけだ。
何とも回りくどく複雑な言い方だけど。
「・・・僕、子どもだから分からないや」
今しか言えない、江戸川コナンとしての誤魔化しの返事を聞けば、自然と口角が上がってしまって。
「そうだね、子どもだもんね」
勿論、笑う場面ではないけれど。
くすっと笑いを漏らして彼に目をやるが、その彼は不服そうな表情で目を伏せていた。
「お待たせしました」
紅茶のセットをトレーに乗せた物を持って、沖矢さんはいつもの笑顔で戻ってきて。
コナンくんに私の相手をしてほしいと頼んでおきながら、彼もここに居座るつもりなのだろうか、と3人分用意されたカップに目をやると。
「・・・ひなたさん、少しどうですか?」
彼は徐ろに、そんな事を尋ねてきた。
「?」
何を、と思いながら彼が見せてきた物に視線を移すとそこには、久しく胃に入れていないものが沖矢さんの手に握られていた。
「ブランデー・・・ですか?」
確かに紅茶にはよく入れるものだけど。
今までそんなものを進めてきたことはなかった。
それを病み上がりの人間に進めてくる彼に、正気かと視線で話すが、もう薬も飲んでいないだろう、と同じく視線で返されて。
思わず、小さく溜息が漏れたが。
「・・・じゃあ、少しだけ」
結局、受け入れてしまった。
これも彼なりの気遣いかもしれない。
逆にそう思っていれば少しは気が紛れる。
・・・今はコナンくんがいるから落ち着いているが、内心ポアロの事は自分の中でかなりショックではあったから。
所謂、半分はヤケの様なもので。
「如月さん・・・」
「大丈夫」
心配そうに見てくるコナンくんに、一応笑顔は向けてみるけれど。
きっと彼の聞きたい大丈夫とは、意味が違うのだろうな。