第102章 ずっと
邪魔をせず部屋でジッとしていろという意味だと思ったから。
別に何の感情も持たないままだったのに。
「待ってください」
部屋へと向かいかけたが、その手を掴まれると反動でフラついてしまって。
「僕は、良い子で待てるか、と聞いたんです」
「・・・?」
改めて彼は質問を繰り返すと、私の体をグッと支えて。
・・・どういう、意味なのだろう。
拗ねているとでも思われたのか。
私にとって、彼の言葉は回りくど過ぎる。
眉を顰めて視線で尋ねると、何故か彼は掴んだ手を引いてはソファーへと誘導した。
そこへ私を座らせると、沖矢さんは私の前で膝を付き、掴んでいた手をそのまま自身の手の平に乗せる様にして。
「君との取引についても、話し合うつもりだ」
「!」
声は沖矢さんのまま、赤井さんの口調でそう言った。
「君が口を出す事はできないが、内容だけは頭に入れておく必要がある」
・・・それはそうだ。
今更、赤井さんとの取引について口は出せない。
それは分かってる。
「これはあくまでもFBIの作戦会議だ」
そして、彼のその言葉でようやく彼が何を言いたいのか、何となく察しがついた。
「言っている意味が分かるな?」
これからFBIは私との取引を含めた作戦会議をする。
私はそれに口を出してはいけないが、その作戦に参加する必要はある。
しかしこれらは私が意図的に聞かされたものではなく・・・あくまでも、良い子で待っている間に、聞こえてきたものとする。
・・・あくまでも、その作戦への参加はFBIの指示ではなく、私の意思で行うからだ。
「・・・・・・」
沖矢さんの手の上に重ねていた手を引くと、無言の返事をした。
もう、その時は目の前だ。
取引とは言っているが、これはどちらかというとFBIの利用だ。
公安には頼めない事だから。
「そこに座っていてください。紅茶を入れてきます」
沖矢さんはフッと口角を上げると、徐ろに立ち上がって部屋を後にした。
その背中を見ては、頼もしさと切なさと、心細さが募った。