第101章 知って※
「ひなたが傍に居ない時、ふと思い出しては勝手に不安になるんだ」
言いながら、抱きしめる彼の腕の力が強まって。
そして彼の言葉に思わず、固まってしまった。
「・・・居ない時も、私の事考えてるの?」
仕事の時は割り切っていると思ってた。
だからそんな事を考えているとは、思ってもみなくて。
「逆に言えば、考えていない時間なんてない」
本当にこういう事をよく平気で言える事に、感心すらする。
見習いたい所ではある。
使い所は私には無いけれど。
「・・・もうこの際だ。正直に話そう」
いきなり不安な切り出しをされると、彼は一度体を離し、私の顎をクイッと上げて目線を奪った。
「数日前、あの男がポアロに来ただろ」
「!」
知っている事は薄々察していたが、まさかこんなタイミングで、その話を出されると思わなくて。
目や言葉よりも先に、体がピクッと返事をしてしまった。
「あの時、機械トラブルで声が拾えていなかったんだ。・・・今更、何の話をしたかは聞かないがな」
・・・これは、信頼で聞かないのだろうか。
それとも・・・諦めだろうか。
聞いた所で私は答えない、というのが分かっていて。
「それを見た時、一瞬で不安になった。声が聞こえてこない、姿だけが映るひなたを見て」
そう話す彼の瞳は、その時の不安を宿しているようで。
「あの男がひなたに触れている事より、傍に居る事より、不安だった」
・・・彼でも、そういう不安を感じる事があるのか。
でも結局は嫉妬もするのだな、と心の中だけで呟いて。
「何処かに行く気がして、思わずひなたに電話したんだ。でもそれは電波障害によって阻まれた」
・・・ということは、私が事務所に戻ってからポアロの監視カメラの映像を見たという事か。
まあ、映像の全てをチェックしているのは別の公安の人だろうけど。
「連絡が付かなかったからあの男と居るんじゃないかと、乗り込んでもしまった。流石に冷静さを欠いた行動だったと思う」
そういう、事か。
何となく分かっていた事だが、彼の口から聞いて腑に落ちた様な気がした。
その瞬間、自分が如何に彼に何も伝えていないかを思い知った。