第101章 知って※
「・・・ほんとは、疲れてる」
逆に疲れない事なんて今まで無かった。
といっても、これは幸せな疲れだけど。
「知っている」
知っているから、聞いた。
そう言いながら微笑む彼の表情が柔らか過ぎて。
心臓が、キュッと音を立てるように締め付けられた。
ーーー
「ひなた」
「ん・・・?」
あれから身なりを簡単に整え、ベッドの上で横たわり眠る直前になった所に、ふと名前を呼ばれた。
あまりにも重過ぎる瞼は開く事を許さず、閉じたまま小さく返事をした。
「もう少し、起きていてくれないか」
「・・・?」
あんなに重かった瞼だったが、彼の言葉に反応してか、スッと静かに持ち上がった。
・・・零がそんな事を言うのは、初めてだったから。
所謂・・・我儘のような事を。
「どうかした?」
横たわる私の傍で、彼は背を向けベッドに腰掛けていて。
その背中を見つめながら、僅かに上半身を上げた。
「・・・いや。もう少しひなたの声を聞いていたかっただけだ」
本当にどうしたのだろう。
最近、やけにこういう日が多いが。
「どうしてか、聞いても良い?」
何となく、ならそれでも良い。
眠れないから、というのであればそれでも。
でも今の彼がそんな理由で、私を起こしたりはしないと思ったから。
「・・・聞いた事ないか?」
背を向けて座っていた彼だったが、布団を持ち上げては私の目の前に転び、強く抱きしめながら徐ろにそう聞いてきた。
「記憶から一番に消えていくのは、声だというのを」
・・・そう、なんだ。
でも、言われてみれば確かに。
私は兄の声を・・・。
「僕は彼らの声も、表情も、教えてもらったことも、全て忘れていないつもりだ」
彼のいう彼らとは、きっと零の友人達の事で。
「・・・でも最近、本当にその声が正しいのか、不安になる時がある」
私も、同じ事を考えた。
兄の声は思い出せる。
でもそれは、本当に兄の声だろうか、と。