第101章 知って※
「その顔は・・・反則だ」
何の反則なのか。
今はそれすらも聞けない。
僅かに汗ばむ彼の顔を前に、綺麗なその瞳に釘付けになって。
そのせいで少しの間見つめ合っていると、彼の瞼が半分伏せられたと同時に眉が寄った。
「・・・あまりそんな目で見ないでくれ」
甘やかされるはずなのに、反則だと言われたり、見るなと言われたり、少し不服を顔に出すように口を尖らせると、彼は自身の手を口元にやって。
「壊してしまいそうになる・・・」
そう零すと、彼は私を視界から外した。
その横顔は、変わらず眉を顰めているようだったが、感情をしっかりと読み取る事はできなくて。
「・・・・・・っ」
息が、止まってしまうような感覚。
「・・・壊して・・・みてよ」
そして、無意識に出た言葉が、それだった。
「絶対に、壊れないから・・・」
何だかんだ、零は優しいから。
そんな事、できるはずがない。
それは決して挑発している訳では無くて。
結局、優しさが勝ってしまうだけ。
その事を、知っているから。
「・・・甘やかしてほしいんじゃ、なかったのか」
「じゃあ代わりに、明日から三日くらい甘やかして?」
理不尽な取引を提案していると思う。
それでも彼は小さく笑いを漏らすと、君らしい、と小さく呟いた。
でもその笑いは・・・決して明るいとは言えなくて。
「僕は本気だ」
言葉通り、真面目な声色で言われれば、どこか気持ちが身構えた。
ただ私も無意識だったとはいえ、生半可な気持ちでは言っていない。
「うん」
私も同じだと返事をすれば、額に彼の唇が軽く触れて。
「本当に覚悟できているんだな?」
そう改めて聞かれると、少し後退りしてしまうけど。
「・・・うん」
もう一度返事をすると、次は頬に触れて。
「・・・愛してる」
最後に唇に触れると、絞り出すような声色で、愛の言葉を零された。
「・・・ッ」
こういう人だという事は知っているのに。
突拍子も無く、歯の浮くような言葉を平気で言う。
それがどれ程心臓に悪いか、彼は分かってくれないのだろうな。
でも、どうして。
どうして、そんな声で言うのか。