第101章 知って※
「話したくない事は話さなくても良いが、言えることは言ってくれ」
「・・・ありがとう」
・・・似たような事を彼に言ったのに。
その言葉を綺麗に返された。
互いに秘密は沢山ある。
それは分かっている。
けど、それを知りたいと感じていない事は・・・無い。
「!」
頬に触れていた彼の手が、頭に数回、ぽんぽんと優しく落とされて。
その時見せられた優しい笑顔に、心臓がキュッとなって。
そして、その場を去ろうとした彼の服を、咄嗟に掴んでしまった。
「・・・あ・・・っ」
「どうした?」
思わず・・・掴んでしまった。
彼が・・・零が、どこかに行ってしまうような気がしてしまって。
「えっ、と・・・」
その行動に、深い意味なんて無かったといえば無かった。
けど、どこにも行ってほしくないという思いはあった。
「・・・一つ、お願いしても良い?」
「ああ」
不安が、勝っている。
彼と居ることで安心感はあるけれど。
何故かずっと、不安が残っている。
だから、何かでこの不安を覆いたくて。
それを覆えるのは、彼しか居なくて。
「強めに、抱きしめて・・・ほしい」
消す事は、今はできないかもしれないけれど。
一時的でもいいから、隠しておきたくて。
服を掴む手の力が、強まった。
「・・・いくらでも」
そう言って彼は、お願い通り強く強く私を抱きしめた。
私の頭を抱えるように、強く。
「・・・・・・」
彼の匂いや、温もりに満たされて。
心音と、吐息を感じて。
じわじわと不安が覆われていく感覚に、やはりこの人でないと駄目なのだということを、実感した。
「・・・零」
「ん?」
事務所で聞いた怒声とはまるでちがう。
優し過ぎる声で、短く何かと問われた。
「キス・・・してほしい」
何かのリミッターが外れているのは確かなようだ。
でなければこんなお願い、普段なら恥ずかしくてできる訳がない。
「お願いは一つじゃ無かったのか?」
「・・・だめ?」
抱きしめていた腕の力を緩め互いの顔を見ると、少しだけ意地悪そうに、彼に問われて。
それに対抗するように問返せば、彼の瞼が僅かに伏せられた。