第2章 就職先
「・・・ただいま」
誰からも返事が返ってくる訳ではないが、帰宅の挨拶を誰もいない部屋へ放つ。
思ったより早い帰宅になってしまった。
小さなワンルームに置かれたシングルベッド。私の定位置だ。そこに腰掛けてふと気になった。
それを調べるために、隅へ置いてあるパソコンの前へ場所を移動する。
「安室さんの探偵事務所・・・」
検索してみたが特に答えが見つかるようなページはなかった。最近借りたと言っていたし、何より毛利探偵の弟子とも言っていたし。
見当たらなくても当然か、とベッドに位置を戻して身体を倒した。
「・・・久しぶりに何か作りたくなってきた」
ベッド下から取り出したのは工具や機械のパーツ。安室さんへの機械に強いという言葉には少し語弊があったかもしれない、と今更気付いた。
「もっと感度の良い盗聴器とか作ってみたいなあ」
そう、私はちょっとした機械を作るのが趣味なのだ。最初は兄の影響でプラモデルを触ったのがきっかけだった。そこからラジコンなどのパーツにときめくようになり、ついには発明紛いのことに手を出し始めた。
実際に作って使うことは少なかったが、作っている最中の没頭感が好きだった。
盗聴器や発信機を始め、通信機などにも手を出していた。それでも素人の作るものなので、大したものではなかった。
「・・・どこかに話が通じる人がいればなあ」
中々、というより今まで同じ趣味の人間にはあったことがない。ラジコン辺りまでは兄も一緒に楽しんでいたが。
まさか遠くない未来、この夢が実現するとは今の私には想像できなかった。
作業に没頭し気付けば日が沈みかけていた。
やばい、やり過ぎた。時間を確認するためにスマホをつけると1件のメール。安室さんからだった。時間は3時間程前を記録している。
「やっちゃった・・・」
着信音を鳴らすようにしていても作業に没頭していると気付かない時がよくあった。兄にもそれでよく叱られた。
慌ててメールを開くと
『お疲れ様です。今日はお話できて楽しかったです。明日のことですが十時から事務所に来れますか?』
なんだか嬉しかった。どうしてかは自分でもよくわからなかったが、心踊った。
『お返事遅くなってすみません。時間の件、了解しました』
そう書いて返信ボタンを押し、ベッドに身を預けた。