第101章 知って※
「お礼を言うのはまだ早いよ」
・・・彼はそう言うけれど。
私はこれからの事だけにお礼を言った訳では、ないんだけどな。
「じゃあ私、そろそろ」
事務所の仕事も残っている。
夜にはセーフハウスにも戻らなくてはいけない。
腰は重いが、ゆっくりとソファーから上げて。
「あとはこっちでも上手くやるから」
「・・・うん」
玄関の方へと向かいかけると、コナンくんが僅かに焦りを混ぜた声色で、そう言ってきた。
・・・不安が態度に出過ぎてしまっていただろうか。
また、彼に気を使わせてしまった気がする。
「如月さん・・・」
「透さんのこと、お願いね」
まだ何かを言いたそうな雰囲気だったが、言われる前にこちらから打ち切って。
彼にお願いするのは大変酷なことだが、コナンくんならどうにかしてくれそうな気がしたから。
そう一方的にお願いを残しては、逃げるように阿笠邸を出た。
小走りで事務所へと急ごうと門を閉めかけた時だった。
「少し、お茶していきませんか」
「っ!!」
突然、気配の無い所から声を掛けられ、声を上げることもできないまま驚いた。
反射のようなもので、声のした方に慌てて視線を向けると、そこには、ふてぶてしく壁に背をつけて腕を組み、こちらを見ている沖矢さんの姿があった。
「・・・急いでいるんですが」
「何か、言いたそうな顔をしていたものですから」
私の顔を見たのは今しがたのはずなのに、その理由は無いだろうと心の中だけで言い返して。
ただ、相変わらず人の心を読み解く力はある。
何故それを有効的に使えないのか。
「一杯・・・だけ」
「すぐ、ご用意します」
確かに、彼にも言っておきたい事はあった。
工藤邸で二人という所で悩んだが、取引がいつ実行されるか分からないから。
それまでには、伝えておきたかったから。
沖矢さんの後ろをついて、工藤邸へと足を進めた。