第100章 ゼロで※
「・・・零」
今度は私が彼を見上げるように名前を呼んで。
彼もそれに反応して、見下ろすように私を見た瞬間。
「!」
その唇を塞いで。
彼の腕の力が緩んだ一瞬を見逃さず、その腕から逃れると、覆い被さるようにして彼の顔を両手で掴んで深く口付けた。
「・・・っ」
慣れないながらもゆっくり舌を出すと、彼の舌が応えるように絡んできて。
でもそれもどこかいつも通りではなくて。
彼の嫌な事を消し去るように。
少しでも私で上書きするように。
必死に、舌を絡ませた。
「・・・零らしくないね」
唇を離すと、彼は少し戸惑いが混じったような瞳で私を見つめた。
区切りをしっかりとつけているはずの彼が、珍しくつけ切れていない。
それを叱るなんてできないが、前を向く手伝いくらいはできる。
「全部聞かせてとは言わないけど、もう少し弱音吐いてよ」
強がりはいらない。
貴方の弱い部分を受け止めたい。
私にできる事は、それくらいだから。
「・・・格好悪いだろ」
「そんな事ないよ」
彼でもそういう事を気にするのか。
「全部をさらけ出してる零の方が好き」
そう素直に言えば、彼の目は大きく見開かれて。
腕でその目を覆い隠すように、上へと被せてみせた。
「・・・参ったな」
震えるような、泣きそうな声でため息混じりに言葉を吐き出すと、見える口元だけはほんのり笑って見えた。
「僕の独り言だと思ってくれ」
「分かった」
その笑って見えた口元は、そうしないと別の感情が勝ちそうだったのかもしれない。
「・・・全てを守り切れない事は分かっている」
「うん」
「また大切な何かを失う日が怖いんだ」
「・・・うん」
「だから降谷零では、持つ物も関わる人間も、必要最低限にしている」
「そうだね」
彼に覆い被さったまま。
目は置かれた彼の腕のせいで見えないけれど。
その先にある目を見つめるように、彼の言葉に相槌を打った。