第100章 ゼロで※
「・・・そうだね」
彼は守っているものが大き過ぎる。
それ故に、守れなかった時の傷や代償は大きいだろう。
流石にその痛みを感じることはできないけれど。
私はそれを、手当てすることができるだろうか。
「私は守れたものなんて無いよ」
大事なものは全て失った。
近々、また失う可能性もある。
それを彼も、察しているのだろうか。
・・・いや。
駄目だ。
絶対に駄目だ。
気付かれてはならない。
彼には・・・絶対に悟られるな。
「ひなたは僕を守っているさ」
相変わらず、私の腹部辺りに顔を埋めたまま。
でも先程よりは少し張りのある声でそう言った。
よりによって、守り切れないものをあげて。
「・・・私は零に守られてるよ」
・・・ああ。
苦しい。
結局私は彼を裏切る事になるかもしれないのに。
嘘だけは・・・
・・・上手くなっていく。
「・・・悪いが、名前を呼んでくれないか」
彼は時々、自分を取り戻すように私にそうさせる。
自分が何者なのか、自覚するように。
「・・・零」
「もう、一度」
彼が望むなら何度でも呼ぶ。
「零」
その名を呼べる日までは。
「れい・・・」
何度でも。
ーーー
あれから彼がやや普通に戻るまで、数時間はかかった。
ようやくご飯とお風呂を済ませてベッドに横になれば、日付けはとっくに変わっていて。
その間、彼はなるべく私から離れようとしなくて。
酷く異様にも見えるその光景が、少し悲しくも、怖くも、辛くもあった。
「ひなた」
「ん?」
ベッドの上で再びキツく抱き締められ、彼の鼓動に耳をすませていると、ふと呟くように名前を呼ばれた。
「・・・いや、何でもない」
言いたい事があるのは目に見えている。
それが何なのかも分かっている。
でも彼は、大事な事程私に話してはくれない。
秘密主義の彼だから、迷うのは当然だろうけど。
いつも大事な事は赤井さんから聞くことに、心へ大きな穴が空いている感覚は感じていた。