第100章 ゼロで※
「・・・なん、なの」
結局、取引の念押しをしに来たのだろうか。
・・・でも、それはどこかついでのようにも見えて。
だとすれば、本当に何をしにここへ?
「・・・・・・」
そういえば。
ふと我に返った瞬間、思い出したのは手の中のお金と、沖矢さんから握らされた物。
ゆっくりその手を開くと、手の中から小銭と共に現れたのは、一枚のメモ用紙だった。
「!」
それをゆっくり開いてみると、そこには赤井さんと取引に関係する事が書かれていた。
そして最後には、跡形もなく処分するように、と。
でも、これ。
「字が・・・違う」
取引に関係する事と、最後の文。
その字が全く違った。
赤井さんの字は恐らく、最後の文の方だ。
だとしたらこの取引に関することは。
「・・・どこかで」
真っ先に思い付いたのはFBIの人達だが、この字には見覚えがあった。
FBIの人達の字を、今までに見た覚えはない。
・・・という事は。
ーーー
「おかえ、り・・・っ、わ・・・!?」
その日の夜。
彼は降谷零の戦闘服を身に付けて帰ってきた。
私の選んだ、それを。
ただ、帰って来るなり様子はおかしくて。
「れ、零・・・?」
玄関まで出迎えに行った瞬間、彼が勢いよく抱きつかれた衝撃で床に倒れた。
覆い被さるように私に抱きついたままの彼を見下ろしては、彼が平常心では無いことを察した。
「どう・・・したの」
一応、聞いてはみたけど。
心当たりが全く無い訳ではない。
でも彼がここまでになってしまうのは珍しくて。
他にも要因があるのではないかと思った。
「・・・守りたいと思う物ほど、守れないものだな」
すぐに答えは返ってこなかった。
数分の間が空いた後、ようやく話した言葉がそれで。
これまた珍しく弱音を吐く彼を見て、思わず目を見開いた。
私を掴む手の力は強いのに、声は酷く弱々しい。
慰める訳ではないが、つい行動として出てしまったのは、彼の頭を撫でるという行為だった。