第100章 ゼロで※
「やはり、首から下げているそれは婚約指輪ですか」
・・・やられた。
指輪という単語につられ、思わず手に目をやってしまった。
それも、左手に。
「いけませんか」
あまり見えないようには付けているはずなのに。
それを言いに来たのだろうか。
「いいえ、でもこれで奪いにくくはなってしまいましたね。僕はこれまで通り、遠慮はしませんけど」
零の言っていた虫除け効果は、どうやら沖矢さんには無いようだ。
例えこれが書面上で交わされたとしても、きっとこの男は変わらないのだろう。
それが本気かどうかは分からないが。
「!」
そんな会話をしていると、突然ドアベルの音が鳴り響いて。
条件反射のようなもので慌てて扉に目を向けると、そこには同じく久しぶりに姿を目にする人物が居た。
「こんにちは、如月さん」
「コナンくん・・・」
成程、そういう事か。
これでようやく沖矢さんがここに来た意味が分かった。
「やあ、坊や」
「あれ?昴さんが居るなんて珍しいね?」
なんて彼は言っているけど。
最初からここを待ち合わせに使われたのだろう。
私しか居ないことは、梓さんにでも聞けばすぐに分かることだ。
「コナンくんはオレンジジュース?」
「あ、僕はいいや。さっき博士の家で食べたケーキとジュースでお腹いっぱいだから」
彼には珍しく、確信的な事を言うんだな。
喫茶店にお腹いっぱいで来るなんて、そんな事。
「僕は如月さんに話があって来たんだ」
「・・・私に?」
そう言って彼はカウンター席に座ると、私の方へと乗り出すように肘をついた。
「如月さん、最近身の回りで変わったことない?」
「・・・ない、と思うけど」
心当たりというのか、変わったことは確かにある。
さっきも沖矢さんに指摘された、アレだ。
でも、コナンくんの質問にこれは答えとして成立していないと思って。