第100章 ゼロで※
「勿論、今は書面上での関係にはなれない。でも、事実だけでも、僕の一生のパートナーになってほしい」
突然過ぎる事に、思考が追い付かない。
何も言えないまま、ただ目の前で光るそれを見つめることしかできなくて。
・・・でも。
「今すぐに答えは求めない。ゆっくり考えてほし・・・」
「か、考えない・・・!」
彼がそう言いながら、リングの入ったその小さな箱をしまいかけたから。
思わずそれを掴んで止めては、勢いよく彼の言葉に食い気味で返した。
戸惑いはあっても、答えだけは決まっているから。
「断る理由が・・・無いよ・・・」
小さい声で、俯いて。
きっと顔は赤いだろうが、それだけは夕日のせいにしておいて。
「・・・ありがとう」
彼の、僅かに震えるような声につられ視線を向けると、僅かに糸の切れた表情で笑いかけられていた。
「時には寂しい思いも、辛い思いもさせるかもしれない。きっと苦労もかける」
そう言いながら、彼は手にしていた箱から指輪を取り出して。
「危険なことも、長い間身を潜めなければいけないこともあると思う」
私の左手を取り直すと、薬指をそっと掴んで。
「でも、どんな時も必ず・・・僕が守る」
ゆっくりと、指輪を薬指に通して。
「ずっと、僕の傍に居てくれ」
その指輪に口付けを落とすと、真っ直ぐ私だけを見て。
改めて、言葉を口にした。
「・・・はい」
胸がいっぱいのまま、こちらも改めて返事をすれば、二人で笑いあって。
今日以上に幸せな日は来ないかもしれない。
そう思う程、私の中は全ての喜びの感情で満たされてしまった。
「挨拶、しておかないとな」
・・・そういえば、ここに来る前にそんな事を言っていた。
その意味が、今、ようやく分かった。
「君の妹は、僕が責任を持って守らせてもらう。・・・君は嫌がるかもしれないが」
兄の眠る場所へと跪くと、彼は静かにそう告げて。
「どうか、見守っていてくれ」
優しい声と表情で話すその姿に、彼と出会えた事に心から感謝した。
私だけでなく、兄もここまで大事に思ってくれる人。
優し過ぎるくらいで、そして何にも真っ直ぐで。
私には、勿体ない人だ。