第100章 ゼロで※
「・・・!」
暫く車を走らせていると、外の景色は見覚えのあるものへと変わっていった。
一番初めに気付いたのは、海。
そこから結び付く、二人の共通の場所は一つしかなかった。
「行こう」
車が止められ、そこから降りれば潮風が髪を揺らして。
人の気配の少ないこの場所から、二人で手を繋いでゆっくりと歩いた。
・・・兄の、眠る場所まで。
「挨拶って、ここに?」
「ああ、そうだ」
一人でここに来るのは難しい。
だからわざわざ連れて来てくれたのだろう。
そう思いながら、膝をついては静かに目を閉じ手を合わせた。
その隣で彼も、同じ様に手を合わせて。
本当は、頻繁に来られれば良いのだけど。
色々な理由でそうもいかず。
これでは兄に申し訳ないなと思いつつ、ゆっくりと目を開けた時だった。
「ひなた」
隣にいた彼が、少し離れた位置で立っていて。
名前を呼ぶなり、手招きをして私を呼んだ。
何故そんな所に立っているのかと首を傾げては、彼が居る場所へと吸い込まれるように足を進めた。
「どうしたの?」
日が沈みかけた海は、オレンジ色に染まりつつあって。
その光が彼を照らして。
優しく微笑むその笑顔に、ドキッと心臓がなった時。
「・・・ひなた」
もう一度、彼が私の名前を呼んで。
私の手を取りながら、その場に片膝を立てて。
「僕だけの人に、なってくれないか」
真っ直ぐ、私だけを見ながら、そう言った。
「・・・え」
あまりにも突拍子過ぎて。
それがどういう意味なのか、すぐに理解できなかった。
「も、もう・・・零だけの人だよ・・・」
混乱しつつそう返すと、彼は小さく首を振って。
「これは」
ポケットに手を入れては、そこから何かを取り出して。
それを私に見せ付けるように手の平に乗せて。
「プロポーズの、つもりなんだが」
小さな箱を開くと、そこに丁寧にしまわれている指輪が、キラリと美しく光った。