第100章 ゼロで※
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帰りの車の中、あの言葉が夢でなかったことを確認するように、何度も左手の薬指に手を伸ばした。
普段そこには無い物があるだけで、こうも違和感を感じてしまうものか。
でもこれは、幸せな違和感で。
「・・・零」
「どうした?」
ただ、そんな中で取り除けない不安はあった。
彼に、それは口にしてほしいと言われたから。
正直に言っておこうと思い、意を決して口を開いた。
「一つだけ、約束してほしい・・・」
ズルい約束だとは思うけれど。
でも、彼には。
「私のいない所で・・・死なないで」
生きていてほしかった。
私の知らない所で、居なくならないでほしかった。
「・・・それは約束しない」
でも、彼の返事は意外なもので。
身勝手な約束だとは自覚しているが、突っ撥ねられたことに驚いて彼に視線を向けた。
「そんな事は当然だ。約束するまでもない」
・・・ああ。
「ひなたより先に死ねば、守ると言った僕の約束が果たせないだろう」
本当に。
「・・・ありがとう」
この人に出会えて。
この人を好きになれて。
本当に、良かった。
ーーー
「別に、何かが変わる訳では無いんだよ・・・ね?」
今日は事務所ではなく、彼のセーフハウスへと戻ってきて。
ここに来るのは随分と久しぶりな気がするが、零はよく帰ってきているようで、掃除は相変わらず行き届いていた。
それを確認しながら、コーヒーを入れる彼の傍に立っては、一つ気になっていたことを尋ねた。
「そうだな。苗字を変えたいなら、名乗るだけはしてくれても構わない。勿論、安室の名前ではあるが」
そうか、そういう事はできるのか。
彼も普段、偽名で過ごしているのだから、私も似たような事になるというだけの事で。
・・・でも、それは少し。
「ううん、しない。私が一生隣にいると誓った人は・・・」
違う気がする。
「降谷零だから」