第14章 出発前
「じゃあ行こうか、如月さん」
「あ・・・っ、うん・・・」
一通り話が済んだのか、振り返るなりコナンくんが私の手を取って部屋を出ようとする。
「あ、ひなたさん」
その時、突然反対の腕を沖矢さんに掴まれて。
瞬時にフラッシュバックするあの時の感覚。
あの男が掴んだ腕の感覚が蘇った。
「・・・っ!!」
吐き気、恐怖、めまい。全てが一気に襲ってきて。
勢いよく、沖矢さんが掴む手を振り払った。
「・・・ひなたさん?」
冷や汗が頬を伝うのが分かった。
沖矢さんは私を不思議そうに見つめていて。
息は気付いたら荒くなっていた。定まらない呼吸の中、掴まれていた腕の感覚を確認するように、震える手でその場所に触れる。
「どうしたの?顔、真っ青だよ・・・?」
「・・・大丈夫・・・、行こう・・・」
「ひなたさん」
再び部屋を後にしようとした時、沖矢さんからもう一度呼び止められた。
それを聞いて振り返りはせず、そのまま立ち止まった。
「何かあれば、すぐに僕かボウヤに連絡をしてください」
「・・・はい」
そう小さく返事をして廊下に出た。
一度悪くなってしまった気分は中々良くならなくて。
「本当に大丈夫?ちょっと休んでからでも・・・」
「ごめんね・・・、もう大丈夫だから・・・」
自分へも言い聞かせるように告げてゆっくりと深呼吸をした。
あの時のことは無理にでも乗り越えるしかないんだと痛感しながら。
「じゃあ・・・、行こうか。こっちだよ」
小さな手は私の手を引っ張って別の車両へと移動した。
そして彼はとある車両の中にある部屋の前で立ち止まり、扉を開いた。
「あ、コナンくん!その人誰ー?」
「ポアロで働いてる如月さんだよ。さっきたまたま会ったからお前らにも紹介しておこうと思ってな」
そこにはたくさんの子ども達と、50代くらいの太った男性が座っていて。
「ここにいるのは僕のクラスメイトで、こっちは前に話した博士だよ」
「こんにちはー!」
「こ、こんにちは。如月ひなたです」
子ども達が元気に挨拶をしてくれて。
その後、コナンくんが丁寧に一人一人の名前を教えてくれた。
そして、彼らを紹介してくれる時に驚いた。
この人が。
まさかこんなところで会えるなんて。