第100章 ゼロで※
彼に質問を投げた後、少し目を丸くした表情から再び笑顔を取り戻すまで、数十秒はあったように感じた。
実際どれくらいだったのかは分からないが、それなりの・・・時間があったように思う。
「残念だが、何も無い」
でも彼から返ってきたのは、嘘か本当か更に分からなくなる言葉で。
「そう思われていたのは、正直心外だな」
「だ、だって・・・!」
それは零の職業上、仕方の無い事だと。
そう言い返そうとした瞬間、握っていた手の力を強めてはその手を持ち上げ、軽く口付けを落とされた。
「悪い。でも、今日は本当に純粋なデートなんだ」
・・・ズルいな。
いつも不安になればこうやって。
その顔も、声も、行動も、全てが。
貴方が好きなんだと、貴方に実感させられる。
「これで少しは不安が無くなったか?」
・・・この際、何かがあったとしてもいい。
彼と二人で出かけていることには変わりない。
今を、楽しんでしまえたのなら、その方が・・・勝ちだ。
「・・・うん。無くなった」
そうする事にしよう。
その方が、気も楽だ。
気持ちが緩んだせいか力無く笑って見せると、彼の笑顔もまた、気の緩んだものになったように見えて。
「やっと笑ったな」
「・・・?」
ふと言われたその言葉に首を傾げると、止まっていた足を徐ろに動かし始めた。
「今日もそうだが、誘った時も、ひなた笑わなかっただろ?」
そう、だっただろうか。
あまりそういう意識はしていなかったけど。
「何か不安な事があるなら言ってほしい。その原因が僕にあるのなら、尚更だ」
その要望には数秒間を作った後、素直に分かったと返事をした。
それが素直にできるかどうかを考えた間だったが、結局できない事を悟って、上辺だけの返事をしてしまった。
私たちの間に、絶対は存在しないから。