第100章 ゼロで※
「その気じゃない・・・て、言ったら・・・?」
そんな事無いのは、彼も分かってるはずだけど。
つい、意地悪にそう聞いてしまった。
でも彼にはそういうものを、逆手に取るということができて。
「だったら、その気にさせるだけだな」
顎をくっと持ち上げられ、覆うように口を塞がれると、犯すように舌を絡めてきて。
もうその気には、お互いなっているのに。
これから何をするかなんて決まってるのに。
時々来るこういう甘い時間は、どうして良いか分からなくなって。
素直に答えるのが・・・難しくなっている。
ーーー
「・・・よし」
約束の、零とのデートの日。
服は迷わず、彼からプレゼントしてもらったワンピースを身に付けた。
普段力を入れないメイクも、髪型も、今日はしっかりと整えた。
気合いを入れ、鼓動を速くさせては彼のいる部屋に繋がるドアノブを握り、深呼吸をして。
数回それを繰り返した後、意を決してドアを開いた。
久しぶりに会う訳でも、初めてのデートという訳でもないのに。
「ま、待たせてごめん・・・っ」
恥ずかしさのせいか、部屋に入っても目を合わす事ができなくて。
・・・今更、何故こんなにも気合いを入れてしまったのか、後悔もする程で。
「待ってはいないさ」
ソファーに座っている彼の方は向いている。
でも、顔は背けたままで。
彼がそこから立ち上がり、ゆっくりこちらに近付いてくるのを感じると、落ち着かせたはずの心臓は再び速さを増した。
「・・・っ」
「似合ってる」
零の手が、頬の辺りからそっと髪を掬って。
僅かに触れたそこが、やけに熱くなった。
「僕以外の目に映るのが、悔しいくらいに」
・・・相変わらず、そういう事を平気で言ってくる。
羨ましくもあるが、少しは無くしてほしいと思う能力でもあって。
「じゃあ、そろそろ行くか」
私の手を取ると、そう言って首筋に優しく唇を落とされた。
唇にしなかったのは、メイクを崩さない為の彼なりの配慮だろう。
・・・相変わらず、ズルいやり方を彼はよく知っている。