第14章 出発前
「傍を離れないでください」
「は・・・はい・・・」
さっきは離れたくて離れてしまった訳ではないが、いつもとは違う少し圧のある声色に、少し怖さを感じた。
そして一緒に感じた、鼓動が早く大きくなるのも恐怖のせいにして。
そのまま肩を沖矢さんに抱かれ、列車内に乗り込んだ。中に入ると肩を掴む手は自然と離されて。
中は写真で見た通り豪華なものだった。
「すごい・・・」
思わず車内に見惚れてしまって。暫く惚(ほう)けていると、意識を戻されるようにトントンと肩を沖矢さんに突つかれた。
「ここが僕達の部屋です」
そう言いながら部屋の扉を開くと、そこには帽子を被った見知らぬ女性が座っていて。
「え、あ・・・」
部屋を間違えたのでは、と一瞬思ったが迷いなく室内に入る沖矢さんを見て、間違いではないことを確信する。
「あら。初めまして、工藤有希子です」
「・・・っ、ええ・・・!?」
室内にいた女性が立ち上がり、笑顔を向ける。その顔には見覚えがあった。
「あ、あの女優の・・・工藤有希子さん・・・!?」
テレビをあまり見ない私でも知っている。
驚き過ぎて開いた口が塞がらないとはまさにこのことで。あまりの出来事に室内に入ることを躊躇い始めた。
「あら、私の事知ってくれてるのねー!でも、今はとにかく中に入って話しましょ!」
そう言いながら彼女は私の背後に周り、背中を押して室内に入れさせた。
「この方がひなたさんね。可愛らしい子じゃない!私のことは有希子って呼んでね」
パチっとウィンクをされながらそう言われて。
どうやら自己紹介の必要は無さそうだ。
彼女が私の名前を知っているということは、沖矢さんと何らかの繋がりがあるということか。目の前の人間二人を交互に見ながら有希子さんに会釈をした。
「・・・あれ、もしかして・・・」
その時ふと思い出す、沖矢さんが住む家。
あの家の表札は確か。
「沖矢さんが今いる家って・・・有希子さんのお家だったりします?」
「おや、言ってませんでしたか」
白々しく沖矢さんが答える
なるほど、と何か心の中で解(ほど)けるようだった。
でも彼女には息子がいたはず。あの有名な高校生探偵、工藤新一が。