第99章 生きて※
「ご所望通り、ゆっくりするとしよう」
そう言うと、不公平に対する代償が何なのか告げられないまま、彼の唇が頬に触れて。
リップ音が響いたかと思うと、今度は額に口付けられた。
鼻、耳、首と、順番にゆっくりと口付けられていく度、体はぴくぴくと反応を示し、閉じきった口内で甘い声を籠らせた。
軽く握った手を口元に置いては、それが外に出てしまわないように必死で抑えて。
そして、彼は口付けを止めないまま、私が纏っていた服や下着を全て順番に取り払った。
「隠すのは禁止だ」
「・・・っ」
脱がされると同時に腕で胸元を隠していると、彼にそう差し止められて。
これがさっきの代償だろうか。
そう考えながら腕をゆっくり退かす間、どこか別の所を見ていてほしいのに、彼はそこから一切目を離さなかった。
「ゆっくりするから、自然体でいてくれないか」
・・・それができたら、そもそもゆっくりで、なんて頼んでいないけど。
心の中で、そう呟いては目を瞑って。
「それと」
まだあるのか。
どうやら彼にとって、ゆっくり、というお願いは私が思う以上に酷なお願いだったようで。
次に何が来るのかと更に瞼を固く閉じ、身構えていると、彼の手が私の両頬を掴んで。
ヒヤリとしたその感触に、一瞬体を震わせたが、徐ろにその瞼を開いた。
「僕から目を離すな」
・・・こういう行為の最中、彼はいつも目を離させようとしない。
いつもの事なのに、今日はそれがいつもの事に感じなかった。
「いいな?」
拒否権は無いのに聞いてくる。
これは確認では無い、命令だ。
「は、い・・・」
時折思わず出てしまう敬語で返せば、彼はどこか満たされたような笑みを見せて。
優越感という訳ではなく、高揚感というのだろうか。
不利にさせられたこの状況を、彼なりに楽しんでいるように思えた。
「ひゃう・・・っ!」
再び、彼によるキスのシャワーを浴びて。
突然耳にそれが来た瞬間に、何とも情けない声を上げてしまった。