第99章 生きて※
「・・・ううん、何でもない」
そう言って、彼の胸の中に顔を埋め込んで。
久しぶりに会ったのに、一度のキスも無い。
最後にしたのは・・・いつだっけ。
「・・・・・・」
未だかつて、これ程までに体が彼を求めた事があっただろうか。
体が疼いて、苦しくて。
抱いて、という一言が言えなくて。
零は疲れているかもしれない。
そういう気分ではないかもしれない。
私が欲しいと言えば彼はしてくれるかもしれない。
けど、負担にさせるようなこともさせたくない。
そんな自分の中での葛藤を繰り返している内、いつの間にか固く瞼を閉じ、彼の服を強く握り締めてしまっていた。
「ひなた」
「・・・!」
彼に名前を呼ばれ、無意識に我慢が行動に出てしまった事に気付き、意図的に体の力を抜いた。
「な、何・・・?」
顔は埋めたまま。
今彼の顔を見てしまうと、耐えられなくなりそうだったから。
「言いたい事は、口に出して言ってほしい」
そう言いながら、彼の指が服の上から背中を伝って。
くすぐったい様なもどかしいような、その感覚にピクッと小さく反応しては、反射で再び彼の服を小さく掴んだ。
「どうした?」
もう一度、彼に改めて問われると、今度は呼吸が上手くできなくなって。
小刻みな呼吸を繰り返しては、心拍数が容赦無く上がっていく感覚を覚えた。
「ちゃんと、言ってほしい」
「・・・っ・・・」
・・・分かっている。
彼はもう、私がどんな状態で、何を欲していて、どうしてほしいのか。
分かった上で、聞いているんだ。
でなければ、こんな耳元で、そんな声で。
囁いたりなんて・・・しない。
「き・・・っ」
これくらいなら許されるだろうか。
でもそれを求めて叶えられた時、私はそれ以上を我慢できるだろうか。
そう考えると、やはり言葉が詰まって。
「・・・!」
ふるふると体を震わせていると、彼の手が私の顎をクイッと上げた。