第99章 生きて※
「き?」
促されている。
薄らとついている、ベッド横のランプがほんのり互いの顔を照らして。
それが恥ずかしさを増幅させた。
「き、昨日・・・!零のナポリタンが食べたくなったの思い出して・・・!」
だから、余計に言えなくなってしまった。
キスしてほしい、なんて。
「明日、作ってほしい・・・な、と・・・」
誤魔化す為に吐いた言葉は、語尾がもごもごと濁って。
「ひなた」
顔を背けることはできないが、唯一そこから動かせた目だけを泳がせていると、静かに諭す様に私の名前を呼んだ。
「・・・・・・っ」
それ以上は、何も言わない。
彼の言いたい事を私が分かっているのが、彼に伝わっているから。
それは、私の気持ちが完全にバレてしまっている証拠だった。
「・・・き・・・」
分かってる。
分かってはいる。
言葉にしてほしいと以前言われたから。
なるべくそうすると言ったから。
でも、それでも、羞恥がすぐに消える訳じゃない。
「キ・・・、っ!」
これを言うくらい大した事ない。
はずなのに、どうして。
「き、キス・・・っ」
こんなにも。
「して、ほしい・・・」
ドキドキしてしまうのか。
「・・・っ」
羞恥心で、声が震えて。
眼球の動きを止められない。
「こっちを見てくれないか」
彼のその言葉で、ようやく動きが止まって。
ゆっくりだが、彼の目を見ることができた。
「れ・・・」
その綺麗な目は、苦しくなる程に綺麗で。
私に向けられるには、綺麗過ぎて。
「・・・!」
彼の顔が近付いて。
折角合わせた視線は、瞼によって反射的に遮断された。
「ッ、・・・」
でも、柔らかい感覚を覚えたのは、額の方で。
「キス、だろう?」
ああ、この意地悪な彼が。
好きで好きでたまらないんだ。
「・・・・・・ッ」
火照る。
熱いほどに。
心も、体も。
「ひなたの言葉で、言ってほしい」
まるで、彼の言葉全てが媚薬のようで。
「口に、してほしい・・・っ」
いつの間にか、自分が自分では・・・無くなっている。