第98章 金輪際
「暫くは一人で行動しても構わない。組織の方も気にするな」
でも、彼からの返答は予想したものと違っていて。
「い、いいの?」
「ああ、ポアロも戻って大丈夫だ」
どういう事だろう。
これからは組織に何か仕掛ける訳ではなかったのか。
「・・・分かった」
これはもう一度、赤井さんに話を聞く必要があるかもしれない。
零にあんな事を言った、文句も言っておきたい所ではあるが。
ーーー
赤井さんから零に聞けと言われていた、あの男が亡くなった日に組織が仕掛けた作戦について零に聞いたが、詳しく教えてくれる事はなかった。
というよりは、話したく無さそうな雰囲気を出した為、聞いておきながらこちらから断った。
赤井さんがああ言うからには、零から聞くしかないが、無理に踏み込みたくもなかったから。
知らなくていい事もある。
それは私もそうだが、零にも言えることだから。
・・・秘密の一つや二つ、今更。
「ひなた、明日は僕の家で待っていてくれないか」
「うん、分かった」
久しぶりに二人でベッドに並ぶと、彼は抱き枕でも抱き締めるように、筋肉質な腕で私を包み込んだ。
彼の体温、匂い、鼓動。
全てを体全体で感じる。
それに心臓が高鳴らないはずなんて、無くて。
「何かあるの?」
「いや、特に意味は無いさ」
・・・嘘では無さそうだ。
単純に、あちらの部屋の様子も見ておきたいのだろうか。
「事務所の仕事が終わったら、待ってる」
「ああ、頼んだ」
何気無い会話。
こういう会話ができる今が、この上なく幸せに感じるのは、普段の非日常が強過ぎるから。
そこへは自分で足を踏み入れたのだから、文句は言わないけれど。
「・・・・・・」
互いに、形だけは既に眠る体勢だ。
でも、眠れる訳なんてない。
久しぶりに、彼の腕の中での就寝。
穏やかに眠りにつけるなんて、考えてはいない。
・・・けど。
「・・・零」
「どうした」
彼から何かをしてくる様子は無い。
でも、期待しているなんて思われるのも恥ずかしくて。
・・・いや、してはいるのだけど。