第98章 金輪際
「沖矢さん、からだけど・・・」
僅かに心拍数は上がった。
でも、動揺はせず表情にも出さなかったはずだ。
ある意味、言ってることは間違いではない。
それに、明確には言っていなかったが、最初からそういうつもりで話をしていたから。
「今日はどうして外に出た?」
今日は、か。
そう言うという事は、私のことをずっと監視はしていたんだ。
きっと今日、沖矢さんが言っていた尾行しているプロというのが、風見さんで。
私達が外出したのを零に伝え背中を押したから、あの場に零が現れたのだろう。
「沖矢さんが、息抜きに・・・って」
怒っている様子ではない。
単純な、彼の疑問をぶつけられただけ。
外に出たことを気にしているのだろうか。
それとも、沖矢さんと二人で外に出た事を気にしているのだろうか。
または、沖矢さんの自己判断が・・・気に入らないのか。
「何をしていた?」
「服を選んでくれって頼まれて・・・」
今更二人で居たことを咎める訳はないか。
そもそも工藤邸に私を置く赤井さんの提案に、彼は了承しているのだから。
「・・・選んだのか」
ただ、これには僅かだが怒りの感情を感じた気がした。
「選んだって言うよりは、探し出した感じだけど・・・ハイネックが中々見つからなくて」
別にそうでなくても良いとは言われたが、それは私の中で許されなかったから。
「ハイネック、か」
・・・毎回、私は気付くのが遅過ぎる。
ハイネックの事を口走ったのは良くなかった。
その疑いは一応晴れているはずだが、零はずっと変声機の存在を疑っていて。
そこに疑念が残っているからこそ、零は沖矢昴が赤井秀一だと疑い続け、赤井秀一が沖矢昴でないと確信ができていない。
「そ、そういえば・・・っ」
頬を包んでいた彼の手を優しく下ろしすと、話題を変えようと切り出してはコーヒーを一口飲み込んだ。
「これから私はどうすれば良いの・・・?」
赤井さんは、私としての仕事もあると言っていた。
それはきっと・・・組織での、という事なのだろうから。