第98章 金輪際
「・・・男がひなたを欲しがっていた事を知っていたんだろうな。弾道からして、ひなたが死角に来るようにしたのは間違いない」
本当に・・・私を庇っていたんだ。
分かっていた真実を改めて受け止めた時、心の奥にしまい込んでいた複雑な気持ちが、再び湧き上がってきた。
「今回の事を責めているなら気にするな。尻尾はまだ出ている。もう、僕たちの仕事では無いがな」
僕たちの仕事では無い、ということは。
「FBIに・・・任せるの・・・」
「というよりは、公安はこれ以上関われない」
・・・それって。
それって。
「私が・・・ッ」
「違う。単純に日本の仕事ではなくなっただけだ」
私が、あの男を死なせてしまったから・・・。
少なくとも、こうなったのはそれは関係しているはずだ。
「ひなた」
彼の冷たい手が、私の頬を包んで。
それに安心できるような、不安になるような、複雑な感情を覚えながら、彼の目を見た。
「あの場にひなたを連れて行くと最終的に判断したのは僕だ。責めるなら僕を責めてくれ」
・・・ズルい。
それを私ができないと分かっていて、そんな真っ直ぐな瞳をするなんて。
「さっきも言ったが、尻尾はまだ出ている。あとは引きずり出すだけだ」
でも彼のその真っ直ぐな瞳が、言葉に信憑性を持たせる。
「ただ、もしまた僕の日本で事件を起こすようなことがあれば・・・」
そしてその瞳に、正義の光が差し込んで。
「容赦はしない」
キラリと輝いた時、自分の中で何かがストンと落ちた。
「・・・理解したか?」
理解は・・・していた。
しようとしていなかっただけで。
「うん・・・」
まだ小さな引っ掛かりはあるが、こういうのを引きずっては駄目なのだろう。
いい加減、切り替えられるようにならなくては。
「・・・ところで、話は奴から聞いたのか」
片手だった頬を包む手が、もう片方の手も加わって。
しっかり顔を背けられないように固定されると、先程とは少し違う真っ直ぐな瞳を私に向けた。