第98章 金輪際

「僕からひなたを取れば、今度こそ壊れると」

･･･ああ、私も言われたな。

どんな理由であれ、風見さんが零にしっかりしていてほしいという思いが、痛いほどに伝わってきて。

「変な気を起こして･･･悪かった」

何回目かの謝罪の言葉を聞いては、それに対して首を振った。

「離れるなと･･･離れないと言ったのは、僕なのに」

彼が、その変な気を起こしたのには、何か理由があるのだろう。

だからと言って、彼がその思いを抱いてしまったことに対して生まれた、寂しい気持ちは残ったままだけど。

「まさか、風見に教わるとはな･･･」

･･･それは、風見さんが零を大切に思っているからだろう。

私と形は違っても、根本は同じだ。

「･･･！」

背中に感じていた彼の存在が無くなると、数秒後に再びそれが重みを増して帰ってきて。

後ろから彼の腕が回され、グッと強く抱きしめられた。


「もう、逃しはしない」


警察官である彼に言われれば、まるで犯人にでもなった気分だ。

逃げる気は、無いけど。

「･･･逃がさないでね」

お互い、何度も姿を消そうとした。
その度に結局元に戻って。

でも、この言葉を最後に裏切るのは･･･

きっと、私の方だ。

ーーー

「結局、あの男を撃ったのは誰だったの･･･？」

あれから入れかけだったコーヒーをきちんと入れ直し、ソファーに座って話を始めた。

ある程度、赤井さんと交わした会話を詳しく話すと、彼は私が聞きたいことを尋ねた。

･･･あくまでも、沖矢さんから聞いたことにしているが。

「あれは男に恨みを持ったマフィアの一員だ。家族を奪われた復讐だったようだが、それを果たした為に自害した」

赤井さんが予想していた通りだったんだ。

･･･でも、気になっていたのは。

「そのマフィアの人間･･･私を狙った、よね･･･？」

男は私を庇って亡くなった。

男が狙いなら、何故私を。