第98章 金輪際
「ほら、あなた達行くわよ!」
それまで何も言わなかった哀ちゃんだったが、状況を察したのか、子供たちに声を掛けてはその場から離れて。
「じゃあね、安室さん、昴さん、如月さん!」
哀ちゃんに背中を押されながら手を振る子供たちに、顔を引きつらせながらも何とか手を振り返した。
「困りますねえ、僕の助手を勝手に連れ回すなんて」
「すみません。お預かりしている間、彼女が随分寂しそうにしていましたから」
・・・助手。
その一言が、またチクリと心臓を刺した。
何も、間違ってはいないのに。
「しかし、貴方といても楽しそうではないみたいですので、すぐにお返し願いたい」
決してお互い視線は外さない。
透さんはそのまま話しながらこちらに近付いて、私の手首を握った。
「随分、都合が良いですね」
そこへ、再び沖矢さんが私の前へと割って入って。
透さんと私の距離がそれより縮まらないように、阻止された。
「それに、探偵の貴方と居て楽しいという保証もありません」
なんて事を言うのか。
そう思いながら目を見開いて沖矢さんを見るが、そこにあったのは珍しく真剣な表情で。
今度は違う意味で目を見開いてしまった。
「この一週間、僕は彼女の傍を離れませんでしたが、一度も笑顔を見せませんでした」
言葉を続けた沖矢さんに、そうだっただろうか、と思い返して。
確かに、彼は私の傍を離れなかったけど。
正直、この一週間は記憶らしい記憶が残っていない。
覚えていたいと思う一日では、なかったから。
「それは、僕と貴方・・・どちらのせいでしょうね?」
沖矢さんがそう言い放った瞬間、私の手首を掴む彼の手がピクリと動いた気がした。
違う。
そんなの誰のせいでもない。
「やめてください・・・っ」
こんな所で、こんな話もおかしい。
「貴方は、彼女の傍にいることもできなかったのですよ」
・・・違う。
それは、違う。
だって、今は仕方なく・・・。
「金輪際、彼女に近付かないで頂けますか」
・・・いつだったか、透さんが沖矢さんに言った言葉。
それを今度は、沖矢さんが透さんへと言い放った。