第98章 金輪際
「沖矢、さ・・・っ」
壁にめり込ませるつもりだろうか。
そう思う程に体を、壁と彼の体で挟まれて。
「おや、これは失礼」
わざとらしく、今気付いたと言わんばかりの声色と表情で言われると、今日何度目か分からない睨みをきかせた。
それでも、彼の体がそこから動くことはなくて。
「・・・退いてください」
「もう少しの間、静かにして頂いて良いですか」
要求は跳ね除けられ、何故か彼にお願いの様に聞こえる指示をされてしまった。
私の指示に従うのではなかったのか。
「・・・・・・」
言われた通り静かに身を潜めていると、微かだが階段の上、路地裏の方から話し声が聞こえてくるようで。
二人・・・いや、それ以上いる。
沖矢さんの体があるせいでハッキリとは聞き取れなかったが、足音からしても三人以上いるのは確かだ。
「・・・・・・?」
あれ。
今、一瞬聞こえた声。
どこかで聞いた覚えが・・・。
「行きましょう」
「えっ・・・」
そう言って沖矢さんは、私を押し潰していた体をスッと引いた。
まだ足音は遠くへ行っていない。
この辺りを探し回っているようだった。
それなのに、上へ上がったら。
「お、沖矢さん・・・!」
何の躊躇もなく下りてきた階段を上がりきると、表通りの方へと向かって。
その瞬間、私は尾行していた一組と対峙した。
「誰かお探しですか?」
その人物達に背後から沖矢さんが話しかけると、皆が一気に振り返って。
「す、昴さん!」
「どこから!?」
そこには、あの少年探偵団のみんなが並んでいた。
必死になって探していたのは元太くん、光彦くん、歩美ちゃんの三人だったようだが、それに付き合っている様子のコナンくんと哀ちゃんの姿も、すぐ近くに発見して。
「ど、どうしたのみんな・・・」
さっきの聞き覚えのある声は、この子達だったのか。
まさか、子どもにつけられていたなんて。
確かに、害はないという沖矢さんの言葉に間違いはないが・・・理由に全く検討がつかなかった。