第98章 金輪際
「言っておくが、今後君は尾行に気付いた時点で逃げることをまず考えろ。もしくは、誰か助けを呼べ。君には何人も味方がいるだろう」
・・・逃げる?
「それが、組織の人間でも・・・ですか」
「今の君に、尾行者の姿を確認することができても、誰なのかを判断できるとは到底思えないからな」
確かに赤井さんの言う通りではあるが、いざ本当の事を言われると、どこかグサリとくるものがある。
「でも、どうして急にこんな事を」
いつもなら、こんな事言わないのに。
コーヒーに口をつける、すっかり赤井さんの口調になってしまった沖矢さんに尋ねると、彼は沖矢昴の笑顔を向けながら口を開いて。
「君に何かあってはこちらも困るからな」
それは、協力者として・・・だろうか。
・・・いや。
それ以外に何がある。
私は彼に何を求めようとしているのか。
「・・・そうですか」
どっちみち、尾行されているのには変わりない。
今はその人間を巻かなければ。
私としても、こういう知識は悔しくもありがたいから。
ーーー
「ここからは指示があれば従いますよ」
それぞれ注文していたものを飲み終えカフェを出るなり、彼から小声でそう言われて。
従うと言われても、今の私が彼へ的確な指示を出せるとは思えないが。
「・・・・・・」
ダメだ。
尾行されている事が分かったせいで、変に辺りを見回してしまう。
これでは相手にバレる。
・・・そもそも、何が理由で私を尾行しているのだろう。
沖矢さんの様子からして、そこまで危険な相手ではないのだろうけど。
「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ。僕がついていますから」
安心させる為に言っているのだろうが、そもそも私がこうなったのは貴方のせいだ、と心の中で文句を言って。
「・・・楽しんでます?」
「おや、バレましたか」
何となく感じる。
その化けの皮を被っていても、その笑顔が偽りかどうかくらいは。
今の彼の笑顔は・・・いつもの笑顔と少しだけ違う気がしたから。
「行きましょうか」
改まったように言いながら、彼は何故か私に近い方の腕を差し出してきて。