第98章 金輪際
「なるべく、隠れるものを探します」
早く探して戻ろう。
沖矢さんと一緒とはいえ、やはり外に出る事がいけない事のように感じる。
・・・沖矢さんと一緒だから、ということもあるが。
ーーー
「本当にこれでいいんですか?」
「ええ、勿論。貴女が選んだのですから」
あれから小一時間、沖矢さんと数件の店を見て回った。
時期的なものもあってか、首元が隠れる服そのものが少なくて。
ようやく見つけたそれを、良いのではないかと適当に見せると、彼は即決してしまった。
「選んだというよりは、探し出した感じですけど」
「構いません。貴女からは貴重な時間も頂きましたからね」
・・・本当に中身が同じ人間なのか疑いたくなる。
今ここで化けの皮を剥がしてみたい衝動に駆られるが、それはグッと押し殺した。
「お疲れでしょうから、少し休憩しませんか」
そう彼が提案しながら指さしたのは、近くのカフェで。
できれば帰りたい気持ちもあったが、一度休みたい気持ちの方が勝ってしまった為、彼の提案に乗り、そこへ入ることにした。
「・・・気付きましたか?」
注文を済ませると、沖矢さんは軽くこちらへと身を乗り出し、何故か小声で話し掛けてきた。
「何が・・・ですか」
釣られてこちらも小声で問い返すと、沖矢さんは自然な雰囲気で口元に手をやった。
「今、君の後をつけて来ている者がいる」
「!」
突然の突き付けに、そんな馬鹿な、と疑う気持ちがありつつも、同時に疑問に思った事も一つ。
何故つけられているのが私だと断言できるのか、ということで。
「まあ、向こうは尾行のプロだからな。気付かなくても無理はない」
・・・尾行のプロとは。
そんな新たな疑問と共に、確信できたことが一つ。
彼は、その尾行している人間を知っている。
だから私をつけていると断言できたんだ。
「・・・誰、ですか」
僅かだが、嫌な汗が流れてきて。
私の中で思い当たる人物なんて、黒にまみれたあの人達しか、思い当たらなかったから。