第98章 金輪際
「貴女は良くも悪くも、本当に素直な人ですね」
「?」
まあ、少なくとも沖矢さんにはそうかもしれない、と濡れた手をタオルで拭きながら視線を向けて。
「ここで目覚めた時、僕が連れ去って来たとは思わなかったんですか?」
「・・・!」
確かに、その可能性はある。
でも、そうだとは思わなかった。
あの時の狙撃が、何となく赤井さんによるものだという事が分かっていたから。
私がここに居る事に関しては、彼が悪い立場の方にいるとは思わなかった。
「・・・そう聞くって事は、違いますよね?」
自ら答えを口にするような人ではない。
それくらいは、彼のことを分かっているつもりで。
「では、どうお考えだったんですか」
そう問われ、今更ながら自分の予想が違っていたのだろうかと、不安になった。
「彼が・・・ここに連れてきたのかと」
だからあの時の、彼は私を眠らせたのではないかと思っていた。
私に有無を言わせない為に。
「半分はそうですね」
また、半分か。
「ここへ貴女を連れてくることは、僕から提案しました」
「沖矢さんが?」
まあ、彼が自分から連れてくる可能性は低いだろうから、そう考えるのが妥当か。
「正しくは赤井秀一、ですけど」
そんな事は大体察している。
食後のコーヒーを淹れる彼に冷ややかな視線を送ると、彼もまたこちらにいつもの貼り付けたような笑顔を向けてきて。
「もし貴女が狙われているのなら、始末し損ねたこの状況は危険ですからね。それがはっきりするまでは彼も安心できないのでしょう」
・・・相変わらず、彼の足を引っ張ってしまっているな、と思う。
あの場に私は必要だったのかもしれない。
でも、もっと上手く立ち回りできていたかもしれない。
過去の事を振り返っても仕方がないことは、痛いほど分かっているのに、思い返せばこんな事ばかり考えてしまう。
「気分転換に、外へ出ませんか?」
「え・・・っ」
沖矢さんの言葉に、パッと顔を向けて。
そんな事、提案されるなんて思いもしなかったから。