第98章 金輪際
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あれから一週間経った。
赤井さんの二、三日という言葉を完全に信じていた訳では無いが、流石にここまで音信不通だと心配になってくる。
「・・・あの」
必要以上には話さないようにはしているが、弱気になっているせいか、その日は沖矢さんにこちらから話しかけてしまって。
「はい」
私の切り出しに、彼は静かに答えてくれた。
この一週間、沖矢さんは私の傍を殆ど離れなかった。
嫌だと言っても風呂場の前で待たれたり、台所へも一人では行かせてもらえなかった。
唯一、一人になれたのは借りていた部屋で寝る時だけ。
と言っても、ここもカメラで監視されているのだろうし、たまに入ってきては一緒にコーヒーを飲んだりをしたけれど。
「零は、大丈夫なんでしょうか」
昼食に使った食器を洗いながら、つい彼に聞いてしまった。
聞いても仕方がないのは分かっていたのに。
もし、その答えが返ってきても、複雑な気持ちになる事も。
私には連絡が無いのに、赤井さんには連絡しているんだ、と。
「珍しいですね」
「?」
僅かにクスッと笑う彼に、何がですか、と問えば何故かこちらに一歩近寄って来て。
「僕の前では、いつも彼の偽名を呼んでいますから」
沖矢さんにそれを指摘された瞬間、ハッとして口元をキュッと縛った。
完全に無意識だった。
沖矢さんの前とはいえ、気を抜き過ぎていた。
零の前以外では、なるべくその名前を口にしないようにしていたのに。
「・・・聞き間違いじゃないですか」
「そうかもしれませんね」
沖矢さんだったから良かった、なんて事はない。
こういう小さな気の緩みが命取りなのに。
「それ程心配なら、自分から連絡してみてはどうですか?」
「それは・・・」
それは、何となく気が引けた。
私が連絡する事で、変に気を遣わせてしまうのではないかと思って。
それに、一言二言で話が終えられる自信が無かったから。