第97章 最終的
「君には見せなくて良いものも、見せてしまったからな」
赤井さんの言う、見せなくても良いものとは・・・あの男の最期の事だろうか。
「それを言う為に、ここへ来たんですか」
「いいや、本当は君の寝顔を拝みに来た」
・・・らしくない。
いや、赤井さんもこうだっただろうか。
元々沖矢昴は赤井秀一なんだ。
赤井さんの声か沖矢さんの声かの違いなのに。
姿が沖矢昴のせいなのか、どこか調子を狂わされるようで。
「寝てなくてすみませんでした」
眠り方を忘れてしまった。
そう思う程に、眠気というものは来てくれない。
・・・瞼を閉じれば、思い出してしまうから。
それはここでの事もそうだけど、昨日の事も。
「・・・!」
忘れたい。
それを実現させるように視線を月へと戻した瞬間、その視界は別のものを映していた。
正しくは、何も映していなくて。
「ちょ・・・っと、赤井さ・・・」
「ジッとしていろ」
抱き締められた。
それに気付いた瞬間、引き剥がそうと強く彼の体を押したが、赤井さんの命令でその力はすぐに削がれた。
「人の体温は安心する」
それは、私に対してだろうか。
それとも。
・・・いや、赤井さんがそんな弱気な事言う訳がないか。
「・・・・・・」
煙草の匂いがする。
零からは絶対にしないこの匂いが、彼では無いことを痛感させる。
「・・・零」
会いたい。
会っていたのに。
でもあの時はバーボンだったから。
「・・・・・・」
次に会えたら、ちゃんと話をして。
あの冷たい手を感じて。
「・・・おい」
隣で眠って。
起きたら二人でご飯を食べて。
「大丈夫か」
穏やかな一日を大切にしたい。
そんな事を思っている内に、あっという間に瞼は重みを増して。
知らぬ間に、意識は視界と同じように真っ暗になっていて。
「本当に子猫だな」
赤井さんのその言葉を最後に、嘘のように眠りについてしまった。