第97章 最終的
「いい加減にして頂けますか」
私が何も言い返せないでいると、バーボンは一際低い声で忠告した。
その声で感じた別の恐怖のせいか、男に対するそれは僅かに薄れた気がして。
「・・・彼女相手だと、冗談も通じないんだねえ」
面白くない。
そう言いながら男は、後部座席に体を預けては、ジャケットの内側に銃をしまい込んでしまった。
「一つ、取引をしないか?安室透くん」
・・・初めて、彼の名前を口にした。
感動にすら近い感情を覚えながら、ふと、男は私の名前は聞いてこなかったなと思い返して。
別に聞いてほしい訳でもない上、それくらいは調査済みかもしれないが。
そもそも私は、この男の名前すら知らないけど。
「お断りします」
「まだ何も言ってないじゃないか」
クスクスと笑う男に目を向けながら、私でもそう答える、と心の中で呟いて。
この男の提案なんて、絶対に平等なものでは無いから。
「まぁ・・・この話は、あの部屋でさせてもらおうか」
男がその言葉と共に外へ目をやったのを見て、つられるように周りの景色へと視線をやると、同時に車が止められた。
気付けば、コンテナが並ぶあの場所に戻っていた。
・・・まさか、もう一度戻ってくる羽目になるとは、思いもしなくて。
それも、同じ日に。
情報屋に誘導され車から降りると、バーボンを先頭にし、あの作業場のような建物へと足を進めた。
歩く間も、背中には銃が突きつけられていて。
一息も落ち着く間なんて与えられなかった。
「さて」
「・・・!」
目的地だった建物にようやく辿り着き部屋へと入ると、近くにあったランタンに灯りを点し、バーボンは振り返ってこちらに体を向けて。
男は近くの机へと腰掛け改まったように一言吐くと、銃を持った腕を私の肩へと回した。
「・・・時間が無いんだ。手短にいこう」
そう言って男は、私の頭に銃を突きつけて。
でも不思議と、恐怖心は上がらなかった。
「僕はこの子が欲しい。君にはその対価になるものを選ばせてあげるよ」
・・・どうしてそこまで私にこだわるのだろう。
何がそこまで彼に執着心を与えるのか。