第96章 価値感※
「ひゃ・・・!?」
突然、ソファーに体を押し付けられて。
手首を纏められると、彼は片手でそれを掴んでみせた。
「証明してみせれば、よろしいですか?」
「・・・!」
すごい。
そう、関心すらしてしまう。
さっきまで降谷零だったのに。
この目付きや雰囲気は、紛れも無くバーボンだ。
どちらも、同じ彼なのに。
一瞬で入れ替わったのではないかと思う程、それは全くの別人で。
「だ、大丈夫です・・・っ」
僅かに張り上げた声が、部屋中に響いて。
反響する声が緊張感を与えた。
「遠慮なさらず。納得されなかったのは貴女でしょう?」
後悔、するべきだろうか。
・・・何処と無くそう見える彼のように、楽しむべきなのだろうか。
「ッ・・・」
首筋に、スッと彼の指が這った。
勝手に体が反応を見せると、今度はそれがゆっくりと唇へと向かいなぞって。
「と・・・」
名前を呼ぶ暇は与えられなかった。
彼の顔が近付いて。
うるさい程に心臓がバクバクと音を上げて。
それをかき消すように瞼を固く閉じて。
触れてしまう。
なんて思った時。
「・・・!」
彼の方から、着信音が響いた。
「・・・失礼」
そう一言断りを入れて、彼はポケットへと手を突っ込むと、スマホを取り出して。
画面を見ると、あからさまに嫌悪で顔を顰めた。
「奴は何処までも僕を邪魔するな」
ポツリと呟く様に言いながらスマホをしまい込むと、彼は私の体をゆっくりと抱き起こした。
「立てますか?」
「は、はい・・・」
さっきの表情が嘘のように、私へは優しい笑顔を向けてくれる。
今の彼は・・・誰なのだろう。
口調は安室透のように感じる。
でも、雰囲気は降谷零のものに近い。
見た目は、バーボンなのに。
混乱している時は、考えたって仕方がない事ばかり、考えてしまうもので。