第96章 価値感※
「あの男は・・・組織に何をしたの?」
そもそも、狙われる理由を未だによく知らない。
あの男も、私も。
「・・・そこまでは僕も知らされていない。だからこそ、この件にはなるべく関わりたくないんだ」
バーボンですら、そんな状況だなんて。
流石にジンやベルモットは知っているのだろうか。
・・・彼が誤魔化している可能性も捨てきれないけど。
「本当にあの男、あそこに来たの・・・?」
作戦が失敗だったのは分かったが、そもそもあの場に現れていたのか。
それすらも疑問に感じてきた。
「来たのは囮だろうな。相手には先にFBIの存在をチラつかせておいたから、組織から逃げたと言うよりはFBIから逃れたという方が正しい気もするがな」
それはFBIと相談しての事だろうか。
沖矢さんは、あの男を常にマークしていると言っていた。
・・・まさかFBIすらも利用したのでは。
「あの小屋で・・・あんな事した、のは・・・」
正直、これに理由を見いだせない。
相手は囮だった。
それに、FBIの存在をチラつかせておいたのなら尚更。
誰も見ていないあの場で、声を出せと言った理由とは。
「残念ながらバーボンは、あんな場所でお行儀良く待っていられるような良い子ではない」
言いながら、彼の手が私の顎に添えられて。
くいっと持ち上げられると、不意に顔を近付けられた。
「・・・っ」
意味なんてない。
敢えて理由をつけるのなら。
「僕がそうしたかったから、そうした」
そう、静かに耳元で囁かれた。
「これじゃ、不十分か?」
耳元から静かに離れた顔は、目の前にきていて。
あの時と同じような・・・悪い笑顔が目に写った。
「・・・不十分」
「それは困ったな」
うっかり首を横に振りそうになったが、耐えて説明を求めた。
流石にそれだけではないはず。
そう目で訴えたが、彼の笑顔が崩れる事はなかった。