第96章 価値感※
「どうやら、我慢できなくなったようですね」
言いながら、額に落とされたキスにすら体が反応してしまう。
「・・・っや・・・」
フワッと持ち上がった体は、彼に横抱きにされて。
彼はこれを待っていたと言わんばかりに、すぐさまその場から動いた。
「彼女の体の限界が近いので、失礼しますよ」
彼らの隣を通り過ぎる瞬間は、思わず目を瞑った。
体の熱を抑える為でもあったが、その姿を間近で視界に入れるのが怖かったから。
「貴方、そんな物まで使ってるの?」
去り際、バーボンの背中に向かってベルモットが言うと、彼はほんの少しだけ足を止めて。
「たまには楽しいですよ、こういうのも」
僅かに顔だけ背後に向けると、彼はそう言って。
小さく、ジンの舌打ちが聞こえた気がしたけれど、彼の足は車へと足を進めた。
「っ、・・・」
・・・疼く。
触れる彼の手も、聞こえる鼓動も、彼の匂いも。
全てが何かの刺激になる。
でも・・・以前と違うのは、余裕があり過ぎるということ。
「・・・っ、ン・・・!」
そう思っていた矢先、彼の指先が耳にそっと触れた。
ゾクッと全身に快楽が走ると、一気に力が入って。
「大変、虐め甲斐がありそうですね」
こちらを見て微笑む笑顔は、間違い無く悪い笑顔だった。
でもその笑顔の奥に・・・別の感情が見えた事も確かで。
どこか急ぎ気味に車へと向かい、私を助手席へと乗せると、優しく頬を撫でられた。
それにも律儀に体を震わせると、一瞬彼の表情が強ばった。
「・・・もう少しの辛抱です」
そう言葉を残してドアを閉めると、彼は反対側に回り運転席へと乗り込んだ。
力が入らない訳では無い。
でも、入れ方がよく分からなくなっている。
呼吸は荒いが、できない程ではない。
でも、苦しさは確実にあって。
・・・それ以外に確かなのは、今すぐ彼に触れて欲しいと体が強請っていることだけだ。