第96章 価値感※
「・・・おや」
ゆっくりと開かれたドアの向こうには、誰かが立っていた。
彼の手が視線の先を塞いでいてよくは見えないけれど、その人物の真っ黒なコートがはためく姿は見えた。
「その顔は、良い結果が出たとは言えないようですね」
「黙れ」
・・・違う。
声を聞いた瞬間、そう思った。
頭の中にポツリと浮かんだその言葉は、動揺どころか呆気を呼んで。
私は、彼のどの言葉に惑わされ、どこで間違い、どこから勘違いしていたのだろう。
二転三転した思考はぐちゃぐちゃになり、遂には考える事をやめてしまった。
「僕は言われた通りしたまでですから、この責任はそちらですよ」
「黙れと言ったのが聞こえなかったか」
僅かに乱れた衣服をバーボンに整えられながら、倒れていた体を丁寧に起こされて。
その最中、ドアの方へと改めて目を向ければ、声で察した通りそこにはジンが立っていた。
出掛ける当初は、今日会うのは組織の人間だと思っていた。
でも車内の会話で、それは情報屋の男へと予想が変わっていて。
でもそれに間違いは無かったと思う。
きっと彼も、そう伝えたはずだ。
でも、結局目の前にいるのはジンで・・・。
・・・本当に、何が何だか分からない。
唯一幸いだと言えたのは、混乱が強過ぎて、動揺する暇が無いということで。
「八つ当たりは良くないと思うわよ、ジン」
そんな混乱する暇すら与えないまま、今度はベルモットが姿を現して。
・・・会話から察するに、バーボンの仕事としてここへ来たことには間違いないようだけど。
「いっそ、その子を差し出してみたら?」
「ベルモット」
足場を確認しながら立ち上がると、ベルモットは冗談めいた口調でそう言ってみせた。
それが私を指していることは分かったが、私を差し出す相手は誰なのか。
そんな事をある意味、呑気に脳裏で考えていた時、ベルモットの言葉をかき消すようにバーボンがその名を呼んだ。
この上なく低く、強い声色で。