第96章 価値感※
「ひぁ・・・っ」
手袋をした彼の手が、ワンピースの裾から入り込んでは腹部を這った。
でも、声が出たのはそのせいではなくて。
「相変わらず、耳が弱いですね」
「しゃ、喋っちゃ・・・ッ」
彼の言葉通り、敏感過ぎる耳に彼の舌が這ったから。
いつもの、背を逸らしてしまうようなゾクゾクとする感覚が走って。
どこかを掴みたがる手が、無造作に彼の肩辺りを掴んだ。
「ン・・・っあ・・・」
大きく声を荒らげる程でもない。
でも、声を我慢できる訳でもない。
そんなギリギリのラインを、彼は攻めてくる。
「こういう場所も、お嫌いではないようですね」
その言葉には、返事ができなかった。
こういう時、バーボンの女としてはどういう返事をすべきか、冷静に判断ができなかったから。
斯く言う彼は、この場所を含め、現状も楽しんでいる様にも見えた。
「ふ、ぁ・・・」
服の上から胸の膨らみに手を当てられ、ゆっくりと、優しく、手の平全体で包むように揉まれて。
これが、この上なくもどかしい。
気持ちが良いのに、明確な快楽が得られない。
目の前にチラつかされながら、お預けをくらっている気分で。
「足りませんよね?」
「・・・ッ」
悪魔のような囁きが、耳を擽る。
まるで、洗脳されていくような気になった。
「・・・ひなた」
やめて。
今、そんな声で・・・そんな所で、名前を呼ばないで。
私も、呼びたくなってしまう。
「・・・っ・・・」
声にならない声が出た時。
突然、部屋に嫌な音が響いた。
それに気付いた瞬間、扉の方へと視線を移して。
「・・・動揺するなよ」
ここに入った瞬間、彼はきちんと鍵をかけた。
なのに、それはゆっくりと回り、カチャリと音を立てては解錠された。
誰が開けたかなんて・・・検討はついていた。
覚悟する時間も、十分にあったはずだ。
けど、吐き気がする程・・・緊張感が体を強ばらせた。