第96章 価値感※
「・・・っん・・・」
何のキスだろう。
最近は、何かと彼の行動に理由を求める様になっていた。
恋人なのだから、そんなもの必要無いと分かっているのに。
「っ、ン・・・ぅ・・・」
見上げてしているせいか、どこか苦しさが勝っている。
縋るように彼の腕を掴むと、自然と瞼は閉じられていて。
舌が絡む度、背徳感を感じる。
すごく・・・いけない事をしている気が。
まるで禁忌を犯しているかのような、そんな感覚。
それは吐息が漏れる度、絡み合う音が鳴り響く度、強くなっていった。
「・・・あまりその目はしないでくれ」
唇が離れると、僅かに上がった息を肩でして。
彼と目が合った瞬間、困ったように笑ってはそう言われた。
彼はよくそう言うけど、私は未だにそれがどんな目か分からない。
「襲いたくなる」
そう言葉を付け足しながら、彼の親指が唇をなぞって。
それが僅かに擽ったくも、どこか感じてしまうようで。
心臓が痛い程に脈打っていたのにようやく気付いたのは、その時だった。
「が、我慢・・・してる?」
昨夜もしたのだから、ご無沙汰という訳ではないけど。
彼にそういう我慢はできればさせたくない。
目を逸らすように視線を横に流しながら問うと、彼は少しの間を置いて答えた。
「・・・今日は少しな。約束の時間もある事だから、僕も着替えてくるよ」
じゃあ、その約束が無ければこのまま・・・なんて不埒な考えが浮かんでしまう程には、ある意味浮かれているのかもしれない。
同時に、危機感が無さ過ぎるとも思うけど。
「少しここで待っていてくれ」
そう言って彼は、私の額にキスを一つ落として寝室へと消えていった。
熱が残るように感じる額に手を当てては、彼が消えていったドアを静かに見つめて。
・・・こういう事を彼はいつも平気でやってのけるが、本当にどこで覚えてきたのだろう。
これもまた、警察学校の友人からだろうか。
だとすればこれはきっと・・・悪い事だ。