第96章 価値感※
食事を済ませ服を着替えると、彼は髪の毛を綺麗にセットしてくれて。
器用に何でもこなす彼を鏡越しに見ては、ふと兄の事を思い出した。
兄にこういう事をしてもらった記憶は無かったように思うが、何だか・・・してもらっていたような気がしてくる。
・・・兄と零を、重ねてしまっているのだろうか。
「どうした?」
私がボーッと考え込んでいると、彼はこうしていつも声を掛けてくれる。
これは兄もそうだったように思う。
・・・警察官として働き、疎遠になる前は。
「ちょっと・・・昔のことを、思い出しただけ」
兄の為にも、母の為にも。
私はあの組織を潰したい。
・・・いや、今は私の為でもある。
私がどうこうできる問題ではないけど。
少しでも公安やFBIに協力できるなら。
やれることが、あるのなら・・・。
その為に、赤井さんとあんな契約までしたのだから。
「僕も、よく昔のことを思い出す」
「・・・零も?」
少し意外だと振り向いては、微笑む彼の表情の、奥底に潜む悲しみを見てしまったような気がした。
「良い事も悪い事も、昔の仲間に教わったからな」
・・・昔の仲間。
以前教えてもらった、警察学校の人達のことだろうか。
「ひなたはどこか僕を見ているようだから・・・放っておけないんだ」
・・・ということは、私が彼に感じていることは、彼もまた感じているということだろうか。
同じ感じ方かどうかは、さておき。
「よし、できた」
彼の手が両手にポンっと置かれた途端、またどこかに行きかけていた意識が瞬時に戻ってきた。
綺麗にセットされた髪は、崩してしまうのが勿体無い程で。
なるべく崩さないように気をつけようと思う中、彼は美容師としても働けそうだと感じていると、肩に置かれていた彼の手が数回私の肩を叩いた。
「?」
呼んだ?と、彼の方へと視線を向けた瞬間、唇に柔らかい感触を受けた。
突然のそれに目を見開いていると、唇を更に温かいものがゆっくりと這った。
それが彼の舌だと分かった瞬間、自然と唇は彼を誘うように、ゆっくりと開かれていった。