第96章 価値感※
「・・・起き上がれるか?」
顔を掴まれたまま布団から引き出されると、鼻先が触れそうな位置で、今度はそう問われた。
相変わらず綺麗な瞳で見つめられれば、可能以外の答えを許されていない様な気さえしてくる。
「うん・・・」
確か昨日、今日は彼と居てほしいと言われていたけど。
何をするつもりなんだろう。
ベッドから体を降ろし、リビングに向かうまでは、そんな疑問があった。
けれど、リビングに置かれている昨夜は無かった物が目に入った瞬間、何となくだが・・・これからどの彼と過ごすのか分かった気がして。
「・・・食事を済ませたら、それに着替えてくれないか」
ソファーに掛けるように置いてあったそれを見ていると、早速食事の準備をする零に、そう言われた。
真っ黒でシックなワンピース。
短めのフレアで、シンプルなデザインだ。
・・・何となく誰かを彷彿とさせる為か、僅かだけど拒絶感を覚えた。
これで何処に行くのかは知らないし、知る事はないだろうが、誰に会うのかは幾つか候補が持てた。
「ひなた?」
「・・・似合う、かな」
ただのお出掛けにならないことは分かっていたはずなのに、いざそれが現実になれば、やはり寂しく感じてしまった。
似合いたくなんてないけれど、彼らと接触するには必要なのだろうな。
・・・組織のイメージカラーである、黒い服が。
「ひなたは何を着ても似合うさ」
気休めでも、そう言ってもらえるだけで今は落ち着きが保てる。
平常を装いつつも、心の中はざわめき、緊張感が体を強ばらせているから。
「・・・いや、訂正しよう」
突然、先程の言葉を覆す彼に視線を向けると、彼は少し不服そうな表情でこちらを見ていて。
「ひなたに、赤は似合わない」
その言葉に思わず目を丸くしていると、彼の不服そうな表情は次第に柔らかいものになって。
・・・つくづく、彼が味方で、恋人で良かったと・・・心底思う。