第96章 価値感※
ーーー
眠ったのだろうか。
そう思う程に、それは一瞬だった。
瞬きをした瞬間に、朝を迎えたように思えた。
気付けばベッドの上。
彼の隣で、目が覚めた。
「おはよう」
瞼を開けば目の前には彼が居て。
優しい笑顔と声色で、挨拶された。
「おは・・・よう・・・」
目は覚めているが、頭は覚めていない。
そんな中で、とりあえず挨拶を返した。
「昨夜の事は、覚えているか?」
まだ完全には目覚めていないのに突然そう問われ、慌てて頭をフル回転させては昨日の事を思い返した。
・・・忘れていた方が良かったのだろうか。
でも残念ながら、眠る直前まで記憶は案外鮮明に残っていて。
「お、覚えてる・・・」
僅かに布団を引き上げながら正直に質問に答えると、彼は何故かフッと笑いを漏らした。
「なら、良かった」
・・・良かった、ということは、覚えていることに問題はないのか。
そう僅かに安堵しては、何故確認したのかと小首を傾げた。
「覚えていなければ、もう一度覚えさせる必要があったからな」
相変わらず私の疑問を読み取るのが早い。
・・・相変わらず、私が顔に出過ぎているだけなのかもしれないが。
「・・・・・・」
そして、彼の言うもう一度という言葉にようやく、覚えておかなければならなかった事を察した。
・・・昨夜、散々言われていたじゃないか。
彼を、覚えろと。
「・・・っ」
思い出せば恥ずかしい。
その羞恥に耐えられず、引き寄せた布団の中に顔を埋め込んだ。
「それとも、もう一度覚えさせた方が良いか?」
「・・・ッ!」
クスクスと悪戯に笑いながら問う彼に、布団の中でフルフルと首を強めに振ると、頬に冷たい感触を受けた。
彼の手が触れた事は、その温度だけで分かった。
「・・・見なくても、赤いのが分かる」
それは、私も同じだ。
彼の手がこんなにも冷たく感じるのだから。
私の顔が、赤く、熱くないはずが・・・ない。