第94章 強制的
「言っただろう、おまじないの様なものだと」
そう言っては、再び頬に唇を触れさせた。
・・・甘い、甘過ぎるな。
今の私にこれは甘過ぎて。
どこか落ち着かなくて、勿体なくて。
少し、欲深くなる。
「・・・零」
だからなのか。
つい、強請るように名前を呼んでしまった。
「バーボンでそれは通用しないからな?」
フッと笑いながらそう言っては、私の要望通り今度は唇へとそれを落としてくれた。
・・・この甘さが続けば良いのに。
そういう欲深さが、いけないのだろうか。
「・・・っ!」
そんな事を考えていた時。
唇が触れ合う中、体が突然ソファーに倒された。
そこまでは言っていない、と伝えるように軽く肩を叩くと、スルリと口内に舌が入ってきて。
「ンっ、れ・・・んぅ・・・ッ!」
・・・あれ、これは。
「・・・っ、は・・・零っ、待って・・・!」
所謂、尋問に入られるのでは。
・・・というのは、考え過ぎなのか。
でも条件反射のようなもので、そう考えてしまう。
「・・・ひなたはいつも僕を待たせるな」
「ご、ごめ・・・」
少し不服そうな彼の表情に、途端に申し訳なさでいっぱいになった。
でも、それは彼の普段の行いのせいでもある、と心の中だけで言い返して。
「ひ、一つ確認しておきたいんだけど・・・」
「?」
この甘さは、本当に甘いままなのか。
いつも飲んでいるミルクティーのように。
それだけを、確認しておきたくて。
「もう、私に聞くことは・・・無いよね?」
おずおずと上目で彼を見ては、控えめに問い掛けた。
それを聞いた彼は目を丸くすると、僅かに視線を落として。
それを肯定とは取りたくなかったが、限りなくそう見えてしまったのは事実だ。
「・・・一つだけ、きちんと聞いておきたい事がある」
やっぱり、あるんだ。
聞かなければ良かっただろうか。
いや、今更何を。
優柔不断、天邪鬼にも程があるだろう。
どこか覚悟のようなものを決めては、この甘さは簡単に続かないことを思い知った。